保護者視点からはじまる赤ちゃん調査

イヤイヤ期の子どもについて:パートIII 「イヤイヤとなった時にどうやって対処した?」への自由回答の分析

はじめに

本パートは、BOLDに登録されている保護者の有志による「保護者視点からはじまる赤ちゃん調査」研究チームが実施する第三弾の調査結果報告です。 イヤイヤとなった時にどうやって対処したか教えてくださいというお願いに対する自由回答を分析してみました。

方法

ワードクラウド

まず、テキストマイニングの手法を用いて、回答の中に頻出するワードを抽出しました。図中の青は名詞、赤は動詞、緑が形容詞、灰色は感情語となります。 taisho ※ユーザーローカルAIテキストマイニングによる分析( https://textmining.userlocal.jp/ )

この分析結果を横目に見つつ、全回答を読みながら回答の分類方法を考えました。そして、最終的に以下の5つの主要カテゴリーに分類しました。

結果

5つのカテゴリー

  • 「気分転換・注意逸らし」
    • おもちゃや遊びを変える、YouTubeやテレビを活用する、別の活動に切り替える、父親など別の人が対応するなどの方法で子どもの気分を切り替えたり、注意を逸らす対処法はこのカテゴリーに分類しました。
  • 「コミュニケーション」
    • 子どもの気持ちに共感・寄り添い、要求を理解し、丁寧な説明を心がけるなど、主に言語的なコミュニケーションによる対応をした場合にこのカテゴリーに分類しました。
  • 「時間・場所」
    • 子どものイヤイヤが落ち着くまで待つ、クールダウンのための別室を用意するなどが対応が行われた場合にこのカテゴリーに分類しました。
  • 「スキンシップ」
    • 抱っこや抱きしめ、背中をさするなど、体の触れ合いを通じた対処法を選んだ場合にこのカテゴリーに分類しました。
  • 「報酬による動機付け」
    • 報酬(ご褒美)をあげて、してほしい行動を増やそうとする(ほしくない行動を減らそうとする)対応が行われた時にこのカテゴリーに分類しました。
  • 「その他」
    • 上記の分類に当てはまらない回答はこちらに分類しました。

category1

なお、一つの回答の中に複数のカテゴリーにまたがるキーワードが含まれることも多く、それぞれのカテゴリーで個別にカウントしています。このように、保護者の方々は様々な工夫を組み合わせながら、お子さまのイヤイヤに対応されていることがわかりました。

さらに細かく見てみる

各カテゴリーのサブカテゴリについて、より詳しく見ていきましょう。

最多だった「気分転換・注意そらし」には4つのサブカテゴリがあります。「物による気分転換」は新しいおもちゃを提示したり、別の遊びを始めたりする方法です。「メディアの活用」では、YouTube、テレビ、アニメなどの映像を使って気を紛らわせます。「活動の切り替え」は、全く別の行動に移行することで状況を変える手法です。そして「人による気分転換」は、主にお父さんに代わってもらうなど、対応する人を変えることでイヤイヤを収める方法となっています。

2位の「コミュニケーション」は3つのサブカテゴリに分かれます。「共感・受容」は、子どもの気持ちに寄り添い、時には代弁することで気持ちを理解していることを伝えます。「要求への対応」では、子どもの要望を聞き、可能な選択肢を提示します。「説明・約束」は、なぜその行動が必要なのかを子どもの理解度に合わせて説明したり、これからどうするかの約束を交わしたりする方法です。

3位の「時間・場所」は「時間的対応」と「場所的対応」の2つに分類されます。「時間的対応」は先述のタイムアウト法に近い、落ち着くまで待つ方法です。「場所的対応」は、別室に移動したり、環境を変えたりすることで、周囲への影響を考慮しながら対応する方法となっています。

4位の「スキンシップ」はサブカテゴリを持たない単独のカテゴリーですが、その中に抱っこ、抱きしめ、ハグ、背中をさするなど、様々な身体的接触の方法が含まれています。

5位の「報酬による動機付け」は「約束型」と「達成の視覚化」に分けました。「約束型」は"〜したら"という条件付きの約束で、ご褒美をあげることで今の行動を促す方法です。「達成の視覚化」は、できたことをシールなどの形で見える形で評価し、褒めることで行動変容につなげていく方法です。両者とも正の強化として機能しますが、タイミングと方法が異なります。

サブカテゴリーごとに頻度を描いたグラフも以下にお示しします。バーの色は、同一上位カテゴリーごとに同じ色にしています。 category2

考察

対処法についての分析結果を詳しく見ていきましょう。最も多く挙げられたのは「気分転換・注意そらし」(全体の約37%)で、次いで「コミュニケーション」(約22%)という結果でした。

このトップ2の方法は、一見正反対(イヤイヤに真面目に向き合うかやり過ごすか)なように見えますが、本質的には同じことをしているように思えます。それは、子どもの発達段階に応じた感情制御の支援という点です。

まず「コミュニケーション」は、子どもがなぜイヤイヤをするのかを理解しようとしたり、保護者の要望を説明したり、実行可能な代替案を提示したりすることで、子ども自身の気持ちの整理と状況の整理を手伝うアプローチです。自分の考えや気持ちを一歩引いて客観的にみることは大人でも難しいことです。イヤイヤ期の子どもなら尚更でしょう。そうした時に、子どもの気持ちに寄り添い、保護者が受け入れ、状況を整理して説明することにより、子どもの感情制御を手助けしているといえそうです。

一方の「気分転換・注意そらし」は、むしろ状況から意識を離すという点で対極的なアプローチです。気分転換や注意そらしは一見何も解決していないように思うかもしれませんが、イヤイヤが激しくて手がつけられなくなっている場合は、子ども自身も何が嫌なのかよくわからず、どうすればいいかわからなくなっているということです。子どもが自分で気持ちを切り替えられない時に、保護者の側がそれを手伝うことは、やはり子どもの感情制御を手助けしているといえそうです。

3位と5位は学習心理学あるいは応用行動療法の考え方を使った対処法と言えるかもしれません。 3位の「時間・場所」は、子どもが落ち着くのを待ったり、周囲に配慮しながら場所を変えたりする方法です。これは「オペラント条件付け」における「負の罰」、たとえばタイムアウト法に近い対応といえます。イヤイヤをすると構ってもらえなくなることを学習させる方法です。

一方の5位の「報酬による動機づけ」は、イヤイヤを収めた時の即時的な報酬だけでなく、後から「よく我慢できたね」と褒めることも含まれています。これは「オペラント条件付け」における「正の強化」にあたります。望ましい行動(感情をコントロールしてイヤイヤを収める)に対して報酬を与えることで、その行動の生起確率を高めようとする方法です。

最後に残った4位の「スキンシップ」には二つの側面があるように思えました。一つは、アタッチメント理論に基づく安全基地としての機能を果たす抱っこやハグを通じた欲求の充足という側面、もう一つはパニック状態になった子どもを落ち着かせるための手段としての抱きしめです。後者の意味で抱きしめている時、1番や2番の方法と同様、感情制御を手助けしているといえます。

まとめ

まとめると、イヤイヤが起きている時に保護者が子どもにする行為には、 嫌なことがあった時の感情制御を手伝う機能 嫌な状況にならないように行動を変える応用行動療法的アプローチ アタッチメント理論的な安心を与える機能、 の三つの側面があるといえそうです。今、子どもへのへのアプローチにはどの側面が効果的かを察して対応することができると良い、といえそうです。

このように、各カテゴリーの中にも様々なアプローチが存在し、保護者の方々は状況に応じてこれらを柔軟に組み合わせて対応されていることがわかりました。自分はあまりこの方法を使っていない!という方法があれば、使ってみるとよいかもしれないですね!


回答例

気分転換(物) の例

  • あ、アンパンマンだ!と言って適当な方向を指差す。
  • アンパンマンのパンをあげる

気分転換(メディア)の例

  • Youtube動画見せる
  • おやつやテレビでつる 抱っこしてルームツアーする

気分転換(活動)の例

  • 1歳半くらいの時は、本当はしたいことでも「いや!」と言ってしまい、本人も行き場がなくなり辛そうでした。その時は、本人が「いや!」と言わなくていいパスの投げ方をしたり(したい遊びだったら、わざわざ聞かないではじめるとか)してました。今(2歳半)は意図のある「やーだ!」なので、本人がしたいようにさせたり、「やだちゃんだねぇ」とからかってケラケラ笑いそうな時はそうやって雰囲気を変えたりしてます。

気分転換(人)の例

  • 対処を父親と母親が代わるのはしょっちゅうです。落ち着いてきてから、何が嫌なの?と話します。 訳わからなくて親が疲れるとオヤツあげよか、と逃げてしまうこともあります。 親の気持ちの持ちようとして、イヤイヤの原因を見つけられたり、対処できたら、ヨッシャ当たり!と心の中で自分を褒めるようにしています。あとは、イヤイヤ期ってすごいなぁと楽しんでいます。あとは自分の思春期の反抗期より全然マシやな…と思うと楽です。
  • 近くで楽しそうに遊ぶ、楽しそうにパパと話す(イヤイヤしてる場合じゃないと思ってもらう)

コミュニケーション(共感)の例

  • 「〜したかったんだね」「〜がいやなんだね」等子どもの思いを代弁し共感する。 叶えられる欲求に対してはできる限り応える。ただし、本来の欲求から気を逸らすために物を与えることは極力しない。(中略)
  • 〇〇したいんだね〜。そっかそっか。など、理解を示す言葉をかける。 *「◯◯がしたかったんだね」と子どもがしたかったことを言葉にする 一度距離を置く。
  • いやだねえ、そうだねえ、と共感し、話せる程度であれば何が嫌か聞く。〇〇〇〇が嫌だったの?と代弁する。それでもだめならしばらく放っておくと自分で気持ちを切り替えてイヤイヤしなくなる。
  • こちらが譲歩できそうな自己主張であれば、受け入れる。 そうでない場合は、 やりたかったね〜 そうか、バナナがよかったのかー など、子どもが言うことをもう一度言う。 悲しいねー 残念だったねー など感情を代弁する。 ベルトはしようね、危ないからね など説明する。

コミュニケーション(要求)の例

  • 2択を出して、選択させてあげる。靴下や、オムツはくの嫌!!!!となってたら、柄の違うやつ2つ待って、どっち履く?と聞いてみたり。

コミュニケーション(説明)の例

  • (前略) 叶えられない欲求(危険なこと)に対しては、その理由とそれをしてあなたが怪我をしたらお母さんが悲しいという2点を伝えた後、代替案を提案して別の形で叶えられるようにする。…
  • 「じゃあらこれで最後ね?いい?」と言って子供が「うん」と言ってから願いを叶えてあげて、それ以降に「もう一回」と言ったとしても「約束したからもうやらないよ」とどんなに泣いても終わりにする。
  • いったん放っておく、別のことを提案してみる、なぜそれを今しなきゃいけないか説明する

時間的対応 の例

  • …別の部屋に親が行って離れ、長女が静かになるまでクールダウンさせる。外に連れ出して、気分、環境を変える。
  • イヤイヤとアピールされたら、別のことを提案してみる。 イヤイヤがヒートアップしてしまったら、しばらく安全な床に転がしておさまるのを待つ。
  • おさまるまで放置

場所的対応 の例

  • 5歳の長女のイヤイヤは、抱っこをして落ち着かせる。別の部屋に親が行って離れ、長女が静かになるまでクールダウンさせる。外に連れ出して、気分、環境を変える。
  • お菓子やジュースでまぎらわせる。外に散歩に出て環境を変えてみる。ばぁばの家に行く。

スキンシップの例

  • とりあえず「ギューしよっか」と無理やり抱きしめてみたりもします。 こどもも親もどちらへも気分転換に。
  • イヤイヤの対処は、満足するまでそのままにしておき、声も掛けず。落ち着いたら抱っこする。
  • 抱っこして歩く。

報酬による動機付け(約束型)の例

  • …時間がないなど大人の都合で叶えられない場合は、その理由を伝えた後、別の時間や別日にやることを約束する。その後、約束を子どもが忘れている様子であっても、絶対にこちらか「待っててくれてありがとう。さっき約束今やる?」と声をかける。(子どもがやってもやらなくても受け入れる) はじめは""不確定な未来の約束ではなく今がいい""となるが、繰り返していくうちに""お母さんは絶対に約束を守ってくれる""という見通しが持てるようになる。
  • ご褒美(おやつやテレビ)でつる 抱っこしてルームツアーする

報酬による動機付け(達成の視覚化)の例

  • これを頑張れば◯◯できるよなど (お菓子、お水遊び、おもちゃ)
  • ご褒美シール(できたシール)を表に貼っていく

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