常葉大学保育学部の村上です。
お子さんにカメラを向けると、ピースをしたり、にっこり笑ったり、決まったポーズをとるようになった——そんな経験はありませんか?「いつからこんなことするようになったんだろう」と、ちょっと可笑しく、でもどこか頼もしいような気持ちになった方もいらっしゃるかもしれません。
◆ ポーズをとるのはいつから? 私たちの研究では、12〜46ヶ月の乳幼児85名にカメラを向けて「はいポーズ」と声をかける実験を行いました。その結果、月齢が上がるにつれてポーズをとる確率は高まり、2歳8ヶ月頃に約半数の子どもがポーズをとるようになることがわかりました(ほぼ初対面の実験者に対してですので、ご家庭や慣れた人に対してはもっと早い時期からポーズを取ると思います)。 さらに興味深いのは、鏡に映った自分を「自分だ」と認識できる子ども(鏡像自己認知が成立している子ども)は、そうでない子どもに比べて約13倍もポーズをとりやすいという結果が得られました。ポーズをとるには「カメラに映る自分」を頭の中でイメージする力が必要です。鏡で自分の姿を認識できるようになること——つまり「見られている自分」を意識する力の芽生え——が、ポーズ産出の発達的な土台になっているのかもしれません。
◆ 「どう見られるか」から「どう見られるべきか」へ この「見られている自分」への意識は、単なるかわいいしぐさにとどまりません。自分が社会という舞台にいることを意識しはじめた子どもは、同時にもう一つのことも学びはじめます。それは「どう見られるべきか」というルール——社会の中の「らしさ」です。 私たちの別の研究では、3〜6歳の幼児76名を対象に、ジェンダーステレオタイプの発達についても調べました。ピンクの服を着てズボンをはいた人物の絵を見せて性別を判断してもらうと、年長になるほど色よりも服の形(スカート・ズボン)を手がかりにするようになります。また「青は男の子の色、ピンクは女の子の色」という意識は年中児で最も強くあらわれ、その後少し変化していくこともわかりました。さらに、他者の気持ちや考えを読む力(「心の理論」)が発達している子どもほど、ジェンダーに関する社会的なルールの理解も進んでいることが示されました。
◆ 子どもは大人の世界に自分から参入しようとしている これらの結果が私たちに教えてくれることがあります。ポーズをとることも、「らしさ」を身につけることも、子どもが大人の世界のしくみを読み取り、そこに自分から参入しようとする能動的な営みだということです。「らしさ」は外から押しつけられるだけのものではなく、子ども自身が社会を観察し、学び取り、使いこなそうとするプロセスから生まれていくと考えています。 カメラに向かってポーズをとるわが子の姿。それは微笑ましいだけでなく、世界を読み解こうとする小さな知性のあらわれかもしれません。そして、その力がやがて「どう見られるべきか」という社会のルールの習得へとつながっていく——子どもの発達には、こんな深いつながりが隠れているのかもしれません。
※本コラムで紹介した ポーズ研究は、Murakami & Kanakogi(in preparation) Pose Behavior as an Early Expression of Public Self-Awareness: Its Association With Mirror Self-Recognitionに、
ジェンダーステレオタイプ研究は村上・石川・望月・秋山(2026)による日本赤ちゃん学会第26回学術集会発表(6月発表予定)に基づいています。